Stage03-01

 江西省。
 現在、ユーラシア大陸に対する人類の拠点のひとつである、台湾から西に行った先にある、中国の領土だった土地だ。
 長江の南岸であり、巨大な湖の広がる省北部と、南嶺山脈を初めとした山岳部の多い省南部。そしてその二極端な地形を北から南へ貫くように流れる河川と、地形パーツと起伏に非常に富んだ土地であったそこは、見るも無残な姿を晒していた。
 眼下に広がるそれは、子どもが遊んだ後の積み木か砂場のように我武者羅な、よく言えば奇跡的なバランスの地形が広がっている。
 バラバラに崩れ、瓦礫がただ山になっているようなそこは恐らく、活気にあふれた街並みがあったのだろう。今では当然、人影なんてものは無い。
 負けず嫌いな人類が、刺し違えてでもと、大量の爆薬を使い、後退しながら敵を倒そうとした結果である。それでもまだ、核を乱打した内陸やヨーロッパと比べれば、起伏が残っているだけマシだろう。

「ヨーロッパはもっと平らだったっけなあ」
 
 その情景をHMDで見ながら、山田は呟いた。

「山田さんもヨーロッパのほうだったんですか?」
「いや、テレビで見ただけ。遠目から取った映像だけだったんだけどさ。見た感じまっ平らだったなあ。も、って朽木はヨーロッパ?」
「ええ。フランスで外人部隊をやってました。出来たのは後期で、撤退も少し早めだったんでどうなったかを見れてなかったんですが」
「そっかー。それよりも東堂さん大丈夫かね。あの人しばらく陸でやってなかった気がするけど」

 悪いことをしたかもしれないな、と山田は罰の悪そうな顔をして話題を変える。機体が彼の心情を表すように、左右へ微かにぶれてから、何事も無かったかのように挙動を落ち着かせた。

「大丈夫じゃないですか? G型……格納庫の隅を暖めてた紅い機体のパイロットの訓練に最近は付きっ切りでしたし」
「新人2人をスカウトしてすぐ実戦投入。世知辛いねぇ。まあ、Saviorのシステム上無理は無いんだろうけどさ」
「そう、ですね」

 今度は朽木の機体の挙動が変わった。微かにだが、A/Bの炎が絞られ、勢いを増す。あわせるように山田が前に出ると、2機の足並みはすぐに揃った。

「上は少し急ぎすぎな気もします。他の軍と足並みを揃えて行動すれば……」
「まあ、天道辺りは愚痴ってる。や、愚痴りたいけど黙ってるんだろうな」

 苦笑して山田が言う。出撃前の、なんともいえない張り付いた無表情がそういっているように感じられた。
 おかげで、こちらとしても僅かばかりの気苦労が否めないのだが。

「友軍を助けるのは当然じゃないんですか?」
「そういう奴なんだよ。歳は俺より近いんだから察してやれって。……さーてと。囚人さん。ちょっと急ごーかー」
「ハッ! さっきから俺の後ろでゴチャゴチャ雑談しやがって。後ろから撃ったりなんてたぶんしねえから安心しやがれってんだ。
 ちゃんとケツについてこいよ? お前らが俺を見えなくなったら、俺が爆破されるんだからなぁ!」

/*/

「……以上だ。俺を含めて9名、8機借りていく」

 ブリーフィングルームに低い声が響く。東堂衛のものだ。Savior用の強化外骨格を身に纏い、テーブルの上に名前の書かれたプレートをいくつか並べながら、彼はテーブルの反対側に立つ天道と市原の2人に向かう。

「わかりました。潜入ルートは3つ見つけてあります」

 と、天道。広げた地図に、赤のペンでラインを引いていく。定規も使っていないというのに、ブレの無いまっすぐな線だ。単純な図形には人の性格が出るというが、まさにそれだろう。

「一番安全な奴だな。地形的に無理が無いやつが望ましい」
「わかりました……水恵さん」
「ほいほい。一寸待ってくりゃれ」

 天道が傍らに居た水恵に目配せすると、彼女は資料を手元で漁り始める。
 少し時間がかかりそうだ、というところで、今度は市原が口を開いた。

「……Savior-Gは使えるんですか?」

 天道も、その言葉には興味があるような視線を東堂へと向ける。
 戦闘に耐えられるか、と、戦闘の役に立つか。同じ話題に興味を持っているのに、この2人の考えていることは真反対だ。そのどちらにも答えられるよう、東堂は一瞬頭を回転させて言葉を選び、返答する。

「宗城はそつなく動かせるようにはなった。が、まだ安心できるレベルじゃない。戦闘になったらシャルロットに操縦を任せる」
「……わかりました。では、可能な限り使わない選択肢を選ぶつもりでいたほうがいいですね」
「実機訓練ぐらいの気分でいくさ。つまり、8名と8機で数えればいい。働いたらラッキーってな」
「ほれ、お待ちどー様じゃ」

 何か言いたそうな天道の眼前を掠め、テーブルの上に各ルートの地形情報が詳細に書かれた紙束が並べられる。どれがどれだかはわからないが、東堂はそれを全て纏めると、そのままの姿勢でゆっくり後ろ――ブリーフィングルームの出口に向かって下がった。

「ありがとう御座います。ここは敵の勢力下です。くれぐれも――」
「わかってるって。不用意な真似はさせないさ」

 市原の言葉が終わるよりも先に、東堂がそれだけ言い残してそそくさと去っていく。
 その背中に、天道が呟いた。

「……貴方が一番やりそうなんですが」