Stage03-06

 快晴。湿度16%。北北西からの微風が毎時およそ8マイル。
 スモークの煙が風に流されて薄くかかる以外、何の支障もない。これならばシミュレータで自動設定される状況下でやるのと大差はないというものだ。
 狙撃砲に装備された高解消度のカメラが捉えた映像越し、小指の爪ほどに小さく揺れる対象に無言で問いかける。

 アナタは次の瞬間、どちらに動くの?

 声など聞こえる距離でもないのにも関わらず、まるで返事をしたかのように、その姿は僅かに右へ揺れる。
 リュドミラは薄い笑みを口元に浮かべた。
 スモークの煙が陽光を四方八方へと撥ね返し、淡い光の幕を作る。
 何もかもが縮尺された朧な世界。まるで自分自身が巨人になったような錯覚。

 空と地上の狭間にある孤島。ここが私の王国。誰にも侵されない、私だけの世界。

 トリガーが引かれる。
 戦場を雷が奔った。

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 轟音。次いで、玲の目の前でSaviorを写した黒い眷属、アディシュスと呼ばれる中距離型の偽Saviorが活動を停止して地面を転がった。
 その一瞬後、再び響く雷鳴とともに、今度は後方に着弾音が連打された。

「ナイスアシスト!」

 肩越しに遥か後方へウィンクを飛ばし、玲が巨大な腕を闇雲に振り回すT級眷属から、大きく跳ねて間合いを開く。ラッキーヒットなんてものをもらってしまっては冗談にもならない。
 着地地点に居たC級数体を踏み潰し、両手に構えた突撃砲の弾をばら撒き、自分のスペースを瞬間的に確保した。

「リドちゃんありがとーっ!」
「こら尚花。そこは一応個人名を出してあげない優しさを見せるところよ」
「え、でも金森君じゃ今のは出来ないよね」

 突撃砲の集中砲火を受け、いたるところに穴と凹みが出来た近接型の偽Saviorと至近距離で打ち合いながら、石雛が素っ頓狂な声を出す。
 天性のセンスとでもいうのだろうか。玲ではあんな人間業ではない機動を見せるものを相手にしながら、会話をする余裕さえ見せることは恐らく出来ないだろう。わかっているからこそやらないのが御堂玲なのだが。

「……どうせリュドミラのほうが上手だよ」
「いちいち暗い声で文句を言わない。士気落ちるでしょうが」

 ぼそりと後方、リュドミラと並んで狙撃砲を構えている金森の呟きが聞こえる。
 態々聞こえるように言う当たり構って欲しいのだろうか。差し出された手を払うどころか焼き払うように素っ気無く返しながら、変化した状況を頭の中で整理する。
 仕掛けるのならば、相手の流れが堰き止められた今。

「文句があるなら黙って出来るようになりなさいな。――ってことで尚花!」

 玲が大きく跳躍する。
 立ち込めたスモークの煙の上に出た瞬間に殺到した照射警報を嘲笑いながら、海面を跳ねるイルカのように再び煙の中へと降下する。

「――むむっ!」

 重力に従って降りてくる玲を察知した石雛が、鍔迫り合いの刃をずらして相手をしていたA級を崩す。おまけとばかりに崩れた相手を横から蹴り飛ばして玲の降りてくるスペースを作りながら、自分は入れ替わりに空へと跳躍した。
 着地と同時に、倒れているA級、殺到してきたT級、C級の群れを相手に、突撃砲の弾幕をまるで剣のように振るいながらインファイトを繰り広げる。

「次、あやめ!」
「もう飛んでったから上手く避けなさいよね!」

 剣舞にも似た動きの中、叫んだ玲の言葉にあやめが間髪入れずに答える。
 飛翔音がA級を捉えて大きく爆ぜた。