Stage04-03

 纏わりつく硝煙の血風。響く怒号と、劈く銃声。
 合間を縫うように、不安を誘う静寂が一瞬挟まる。
 戦場という場所は、激しくもまた不気味な静けさを持った場所だった。

「後退だ後退! 走れ走れ!」

 肩に巨大な機関銃を担ぎ、ボロボロの戦闘服で身を包んだ兵士達が駆け抜ける。
 足取りは驚くほど速い。まるで子供が自宅の庭を駆け回るかのようだ。それを、彼らの進行方向から繰り出される銃弾の雨が援護していた。

「ったくよぉ……今日の敵さん随分多いんじゃねえの? へらねえへらねえ」

 背中から断続的に聞こえる断末魔に、一歩先を行く兵士が愚痴る。
 敵陣に立て篭もってからというもの、定期的に訪れる敵襲のおかげで戦闘経験にはこと困ることはない。しかし、その戦闘経験が、一向に減る様子のない敵に対して言いようのない何かを抱かせるのも確かだ。
 不意に、頭上を駆ける風きり音。
 一寸間をおいて、後方に大きな砂煙の柱が上がった。次いで、軋むような衝撃波が強化外骨格を揺さぶる。

「なぁに。ちょっとぐらい多くてもいつもどおり腕でかい鈍足亀ヤローは砲兵が片付けてくれんだ。俺らは目の前の敵に集中しようや」

 その音を聞きながら、後ろを行く兵士がそれに負けぬように叫んだ。

「そーさなー。……よし、あの岩場で反転するか」
「おっけー」

 速度を少し上げ、飛び込むように指差した岩場の影へ回りこんで即座に機関銃の銃口を来た道へ向ける。
 静寂が一瞬訪れる。銃声も、怒号も、爆音も、何も聞こえない静寂が。
 その中で、瓦礫でできた障害物の向こうをじっと見据える。
 知らぬ間に頬を汗が流れて岩の上に落ちる。引き金に掛けられた指も、緊張から来る震えか、脈打つように動いていた。

 落ち着け。

 鼻腔から大量の酸素を取り入れ、肺の中を限界まで満たす。やがて入りきらなくなったそれをゆっくりと吐き出しながら、自分の中のスイッチを兵士たちは切り替えた。

 いつもどおりにやればいい。

 目から光が消え、視線が照星の一点に収束され、瞳孔が開く。
 呼吸音が、心臓の鼓動が、まるで耳元で鳴っているように聞こえ始めた。

 そう、いつもやっていること――しかし、身体のどこかでわかっていたはずだ。

「……来るぞ!」
「おーけー……わかってる。やれるさ」

 その”いつも”は、すでに通用しないということを。

「死にやがれこのゲテモノ野郎がァァァァァァッ」