Stage04-01

「便りがないのは良い便りといいますが……」
「一週間はとうに過ぎたのう。もうすぐ二週間に突入じゃ」

 静かなブリッジで女性が二人、自分たちの持ち場へゆったりとした姿勢で座りながら呟いた。
 その姿とは裏腹に、呟かれた言葉には僅かながらの心配の色が滲んでいる。味方とともに居るとはいえ、敵陣の深い場所まで入り込んでいるのだから当然だ。

「定時連絡なら入っていますが」

 片手で足りるほどしか人が居ず、戦闘中でもないブリッジにはそんな呟きでさえ端から端まで響き渡る。
 離れたところに座り、何をするというわけでもなく無表情な顔でモニタと睨めっこをしていたラピスがそれに噛み付くように言う。
 もっとも、人間らしさのが稀有な彼女に、噛み付くというつもりは粉微塵も存在しない。ただ事実をありのままに述べているだけだ。わかっているつもりで居ても小さな嘆息を漏らし、苦笑を浮かべながら水恵が答える。

「『みんな元気でやってますので安心してください』など、いまどきの小学生でももう少し考えるじゃろう。そういうのは数えなくていいんじゃラピス」
「まあまあ、いいじゃないですか。彼女がせっかく報告してくれたんですし」

 それに、また別な方向で作業していた男が声を上げ、二人の間に割って入った。
 中浦大桐、この一週間と数日の間に補給物資とともに乗艦したオペレーターだ。人のいい、よく言えば面倒見のいい性格のようで、未成年の多いこの船でも数日の間に溶け込んでいた。
 最年少であるラピス・ラズリに対する接し方はやや過剰気味ではあるが、それもまた年齢差故の気遣いだろう。その認識違いにほかの船員が気がつくのはもう数週間してからの話だ。

「別に気にしてはいませんが」
「あれ?」

 出した助け舟が取り付く島もなく沈没する。
 このオペレーターというにはあまりにも朴訥としたという表現が似つかわしい男は、表情を崩して僅かに首を傾げた。

「まあおかげで貴重な時間が稼げているだけマシとしましょうか」

 水恵がまた変なのがブリッジに来たものだ、と自分を棚に上げて遠い目をすると、市原が再び呟く。

「補給物資の備蓄もそろそろ十二分になるしのう。管理してるヴァネッサがヒィヒィ言っとったぞ」
「言わせておいてください」

 確かにここ数日の間の補給物資はいつもより多い。戦闘がないおかげで消費することもないおかげで、艦の積載上限がそろそろ見え始めるほどだ。
 接触に向かったチームが帰還すれば、成否に関わらずユーラシア大陸を占拠している眷属に対して何らかのアプローチを取るのだろうから、その下準備としては当然なのかもしれない。
 もっとも、市原にとって貴重なのは物資よりも、エンハンスドの訓練に当てることの出来る時間が生まれることだ。
 戦力の少なさは戦い方でどうとでも補うことが出来るが、兵器を操る個人個人の技量は流石にそうはいかない。本来ならば、接触組に混ざった経験の薄いエンハンスドもこの時間で訓練したかったぐらいだ。口には出さないが、部屋に篭っている天道は常々思っていることだろう。

「一分一秒が惜しいというのに、もどかしいですね」
「歳を取ると皆そういうんじゃぞ?」
「大丈夫ですよ、市原さんまだ若いですし」

 ブリッジの静けさが一変し、冷たい静寂が訪れる。
 時間が凍ったようなそこに、ラピス・ラズリのため息の音が静かに響く。
 それとともに、彼女のハイライトの薄い瞳が向けられたモニタへ、大きな変化が生じ始めた。