Stage03-04

 耳を劈く飛翔音。
 白い軌跡を描いた先で、爆炎が空を汚す。

「ヒャッホゥ! 今の見てやがったか? あのデカブツ、頭から煙吐いて落ちて行きやがった!」

 その爆炎を丁度真正面から臨みながら、スコットが歓喜の声を上げて機体をロールさせる。
 しかし、他の2人は冷静だった。

「まだです」
「やっこさんがミサイル一発で落ちてくれたら助かったんだけどねー」

 朽木と山田の2人掛かりで、ありったけの弾を食らわせながら、浮力を失って落ちていくB級――バチカルの巨体を眺める。
 この敵の問題は、対地火力もさることながら、その耐久力だ。ミサイル一発で落とせることはまずありえない。こんなところでスコットの対眷属経験の不足が出るとは思って居なかった2人は、思わずため息を吐く。

「ファックッ! じゃあ少し待ってろ。しっかりそのでかっ腹の中身をぶちまけさせてやるからよぉ!」
「デルタ3、後退しましょう。これ以上は振り切れるものも振り切れなくなる」

 明らかに挙動が派手になり、黒煙へ向かってスコットの機体が突出し始める。
 追うわけにもいかないが、止めないわけにもいかない。山田は何で自分が手綱を握らないといけないんだと肩を落としながら、照準を合わせた。

「うるせえ! 俺に指図――」
「デルタ3。撃つのは良いけど、撃ったら俺も撃つよ。死にたくはないからさ」
「おう、わかってるじゃねえか山田。じゃあ続いて頼――」
「いや、俺が撃つのはあんただって。さっさと旋回してくれないとミサイル撃ってから、ダメ押しで首の奴のスイッチ押すよ?」

 出来るだけ冷静に、平坦に、山田はこちらが本気かどうかを気取られないように語り掛ける。
 実際のところ、撃ちたくはない。仲間意識とかそういう優しいものではなく、こんなところで無駄弾を使いたくは無いという、生存欲がそう思わせていた。

「チッ……! 俺より先に落ちてスイッチごと消えろファック野郎!」

 滅茶苦茶で下品な言い方だが、その言葉に安心して山田はほっと一息を付き、余裕を演出するために、声に出して笑ってみせる。
 瞬間、

「あっはっは。それは――」

 隙は出来た。

「な――いッ!?」
「デルタ1!」

 朽木が叫ぶ。大きく揺れる機体に揉まれながら、山田は自分の下へと殺到してくる敵の航空機――エーイーリーの姿を確認する。
 ああ、これは死んだか?
 そう思った瞬間、世界は白銀に染まった。

「対光子弾頭……」

 神はまだ彼を死なせてはくれなかったらしい。冷静になって考えれば、迷惑な神――いや、この手のお高いものを陳情してくるのはヴァネッサ・ベルナールだろうから、女神か? いや、どちらでもいい。どちらにしても、そんな軽口を叩いていられるほどの余裕が、今の彼には無かった。

「今のうちにE級以外を突き放す。全機加速ッ!」

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「天道! 今の砲撃どこ撃たせてんのよ! 支援ならちゃんと狙わせなさい!」
「今のは航空隊への支援だ。君達への支援はあと50秒待て」

 明後日の空へ放たれた弾頭を目敏く見ていた玲の叫びを、天道が軽く往なす。
 あちらもあちらなら、こちらもこちらだ。流石敵陣、どこもかしこも容赦のないものだと天道と市原は思わず感心しながら、お互い思考するポーズを取った。

「んなこと言われてもこっちだっていっぱいいっぱい……キャッ!」
「御堂機損傷じゃ」
「後退させてください」

 市原が、唇をゆっくりと指でなぞりながら、表情を変えず、即座に打ち返す。オペレーター席の一角で大きな音が鳴り、誰かが背もたれから落ちた。
 そして、ライナー系の当たりにもかかわらず、水恵もそれをそのまま打ち返す。

「無理じゃのう。敵のA1級に抑えられておる。石雛もじゃ」
「それならば、狙撃指示を」
「金森はM級の相手で手一杯……ああ、リュドミラがいたのう。了解じゃ、ちょっと金森の支援に回そうかの」
「おっと、その前に今度はあやめちゃんがピンチだ。後三咲。リュドミラにはA2の砲撃も止めさせてくれ。M級ならそろそろ落ちる」

 ポンと手を打ち、さっさと指示を伝えようとする水恵の肩を、ガブリエルが立ち上がりながら叩いて言う。整えられていた髪形は、一撃でボロボロになっていた。

「落ちなかったらどうするつもりじゃ?」
「俺の勘はよく当たるの。ともかく頼む」
「……それは根拠とは言わないんだなのう。貸し1じゃよ。後でしっかり返すがよい」

 何故か自信満々な顔に負けた水恵が、ため息を付き、後ろから頭を抱える様に腕を回してくるガブリエルをしっしとあしらう。
 それを受けたガブリエルが、まるで風に吹き飛ばされたようにくるくると回りながら自分の席に戻ってマイクを握る。

「ってことだ。リド、スモーク張りながらA2を砲撃、出来るな?」
「当然」

 一部始終を聞いていたリュドミラが、電子音のような声で返事をする。その抑揚のなさは、時折本当に機械に喋らせているのではと思うほどだ。
 次いで、ブリッジの眼前まで上がってくる白い煙の向こうで砲声が鳴り響く。普段ならば、その砲声の次にはレーダー上から光点が一つ減るところなのだが、今回はそれが無い。一撃では仕留め切れていなかったらしい。
 その様子を見ていた市原が呟く。

「敵も歴戦の兵ということですね」
「そのようです。しかしここを越えなければ話になりません」
「おっと、本当にM級の奴が沈黙しおったぞ」
「接触班より定時連絡です」
「天道さんは接触班への指示を。防衛部隊全機へ通達。体勢を立て直し、A級を優先して攻撃。敵の牙を抜いて下さい」

 一歩前に出ながら、市原が腕を組む。

「……獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすといいますが」
「ここは谷どころか、正真正銘の地獄ね」