Stage03-08

「あらー。流石初めての実戦なだけあるわ」
「ずいぶん派手にやったわねー。何で生きてんの?」
「お前ら……」

 噛み砕かれ、殴り飛ばされ、装甲板が擦り切れたようにボロボロで悲惨な状態になった自分の搭乗したSaviorを目の前にして、翔は自分の力不足をしみじみと感じていた。
 自分の手足同然に操縦することができるSaviorというものなだけあって、実戦に出る前までは不安よりも兵器を動かすという高揚感があったのかもしれない。
 それ故に、終わってみてのこの結果は、落ち込まざるを得ない。
 というものなのだが、玲とあやめの2人にとってそんなものは関係なかったらしい。いつも通り、ケラケラと笑いながら翔の背中を2人でバシバシと叩いた。

「冗談冗談。ほら、この子だってフルボッコよ」
「あんたもよ、あんたも」
「いひゃいいひゃい」

 3つほど向こうのハンガーで骸を晒している玲の使っていた機体を指差して見せるあやめの頬を、玲が後ろから回りこんで抓り上げる。その隣ではあやめの機体がバチバチと火花を散らしていた。

「まあ落ちなかっただけマシよ。エースっていうのは誰よりも戦場に出ておいて死に損なった人のことなんだから。
 私が言えた義理じゃないけどね」

 この2人なりの励まし方というやつだったのだろうか。確かに自分らしくなかったと、翔自身も思うが。
 先輩なんだからもうちょっと上手い言い方もあったろうにとため息をひとつ吐き出し、じゃれ合う2人に翔は苦笑を向ける。

「そんなもんなのか……ほかの人は?」
「損傷したのはあたしらだけ。イングとリドは何にも無かったみたいにご飯食べに行ったし」
「タフだな、2人とも……」
「もともと職業軍人みたいな育て方されてたからねー。同い年でも身体の作り形が違うんでしょ」
「胸とか?」
「三咲君って馬鹿なの? 死ぬの?」

 無言かつ、目のハイライトが消えた無表情。そんな玲の隣で、あやめがゲラゲラと腹を抱えて笑っている。
 周囲の温度が3度ほど下がるのを肌で感じながら、翔は本能的に首を左右に振り続けた。
 何事も無かったかのように表情を戻してから玲が続ける。

「あとはー、尚花は天道が来たから隠れてるし、金森はその天道に虐められてる」
「あー、そういや隊長機みたいなの鹵獲し損ねてたもんねー。バラして分析しとけば後々楽になれたかもしれないのに」

 戦闘が後半に差し掛かったころ、猛烈な速度で前衛の玲と石雛を突破し、あやめの攻撃の中をかいくぐりながら襲い掛かってきたA級のことだ。
 幸いM級を撃墜していた金森が即座に対応したが、致命傷を与えたところで自爆。破片を探すのも困難なほどに砕け散っていた。
 敵の素性がいまだにはっきりとしない以上、取れるデータは取っておきたいのだろうが、実際に戦う身にもなって欲しいというのも本音だ。今回の初実戦で翔はそれを痛いほどに実感した。

「ん、そろそろ上に上がった人たちが帰ってくるころだけど、見に行かない?」
「機体破損の報告書は……」

 怖いほど綺麗な笑顔の整備士たちから渡された、ブリッジへの報告書をヒラヒラとさせながら翔は言う。

「サボる口実が欲しいだけなんだから気にしちゃお仕舞いよ」
「一人だけ仲間外れにするのもなんだしね。それに天道が直接見に来てるからいーのいーの」

 悪戯気に2人揃ってウィンクを放ち、翔の両脇を抱えて甲板へ出るエレベーターへと向かう。
 自分が盾に使われようとしていることを翔が知るのは、実際に怒こられる時の話。

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「接触班、無事現地の戦闘員との接触に成功したようです。しかし本艦を格納するほどのスペースは無い模様」
「それは仕方ありませんね。ヤマツカミは換装終了後海岸線へ後退。接触班からの報告を待ちます」
「了解」

 ラピスを通じて東堂からの報告を受け、市原はやっと一息をつく。
 航空部隊も損傷はあるものの全機帰還しており、これでようやく全員が生還したことになる。
 接触班はまだ戻ってきてはいないが。この地でもっとも安全な場所に入ったようなものだ。安堵の一つも出る。

「被害はどうでしたか?」

 報告書を待っていては次に備えられないと、さっさと自ら格納庫へ向かった天道が戻ってくる。

「艦に被害はありませんが3機が大破。戦闘機も2機が中破を超えていました。素人目に見て完全な復旧にはだいぶ時間が必要でしょう。
 予備を使えば直ぐに整いますが、一度ごとにこれではとても保ちそうにはありません」
「早めに戻ってきてもらわないと大変なんでしょうけど……」

 2人がじっと、補給の必要な物資のリストアップにかかっていたヴァネッサへ向けられる。

「そんな遠まわしに催促されなくてもはぐらかしたりはしません!」
「そうですか」
「わかりました。ではどうぞ」
「お主らも急に仲良くなったのう」

 こんなところで結託している指揮官2人に、オペレーター席に座る者を代表して水恵が苦笑しながら呟いた。

「まだ期間はありますが、財団は米軍と協力して安徽省中部、合肥の巣の攻略に動きます」

 書類を書く作業を一度切り上げ、ヴァネッサが立ち上がりながら2人に向き直る。

「そのために必要なものの確保が今回の本題です」
「協力関係の取り付けではなく?」
「表面上はそうです。あなた方の武器が欲しいから協力してくれとは言えませんから」

 当然だ。そんな言われ方をされて快く引き受けるのは、それこそ天邪鬼ぐらいだろう。
 相槌も打たず、2人揃って思考を広げながらヴァネッサの話を聞く。

「それで、彼らの持っている武器というのは……まさか」

 一瞬先に何かにぶち当たった市原が顔色を変えた。

「ええ、核です。大陸からの撤退戦時に使用されず、安置されていた核弾頭があそこにはあります」