Stage03-07

「ああもう! あんまり揺らさないで!」
「煩いな、こんな足場の悪いところで揺らすなってほうが無理だろう!」

 ギャーギャーと、Saviorの中では珍しい複座の機体に搭乗した2人、創とシャルロットが騒ぎ立てる。
 かれこれ10分、いや、20分は続いているだろうか。時間間隔すらおぼろげになるほど、隙間なく騒いでいた。
 機体の中であることと、機体の防音性には感謝しなければならない。万が一近くに敵がいたら、この2人のせいで先導している藤屋の努力は一瞬にして水泡となるところだっただろう。

「吐きそうなんです!」
「パイロットじゃなかったのか!」
「起動実験は整地でやるんだから仕方ないじゃないですか!」
「2人とも仲良いね……」

 それを装甲2つ挟んですぐ傍で聞かされていたレイジが苦笑しながら、疲れた声で呟いた。
 静か過ぎるよりは不安がまぎれるが、これは煩すぎるというものだ。
 本来ならば通信を切っておくところなのだろうが、近いが故に通信を切っておくわけにもいかない。知らない間に衝突されるよりはまだマシだった。

「気のせいだって」
「気のせいです」

 と、創とシャルロット。反論した言葉は完全に重なり、綺麗にハモっていた。
 喧嘩するほど仲がいいというのか、むしろそれが仲がいい証拠ではないか。

「……おい前を行く若者たちよ。今、何か動かなかったか?」

 レイジがため息を吐くと、2機の若干後ろ、最後尾を着いてきていた高野が言う。
 言われて3人が周囲に気を配るが、そこには何もない。触れれば崩れそうな、危なっかしいバランスで空に伸びる岩の壁が続いているだけだ。ここまでと何の変化もない。
 しかし、小型の敵が隠れるにはもってこいの地形だ。

「え、すいません気がつきませんでした」
「敵?」

 なかなか姿を確認できない敵に不安を覚えながら、3機が即座に速度を落とし、互いの死角を埋めるように編隊を組む。
 それでも敵影は確認できない。

「どちらにせよ東堂さんに報告しま――キャッ!」
「え? うわっ!?」

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「……止まってくれ」
「は?」
「はーい」

 場面は移り、先頭集団。
 藤屋の言葉を受けて、追従していた歩と成瀬が藤屋の隣に止まる。
 一人、さっさと帰りたいがために命令を無視しようとしていた柊澤だったが、自分だけが進むわけにも行かず、柊澤も続いて立ち止まった。
 足を止めれば、必然的に視線が周囲へ向けられる。

「敵……じゃないですね。人間?」

 凸凹とした岩場の影に一瞬だけ見えた何かを、もう一度見つけんと成瀬が目を凝らす。明確にその姿を捉えることはできないが、どうやら周囲が取り囲まれているようだった。
 4機が背中を合わせて全周囲を警戒する。

「接触対象だろう、探す手間が省けたな」
「ああ、成程」

 むしろ予定通りというものだ。
 存在は知っていても、その正確な場所はわからない。が、敵陣に潜伏しているような兵士たちが、迂闊に自分たちの周囲をうろうろとされることを望むわけがない。
 相手の心象は悪くなるかもしれないが、しらみつぶしに探すよりもよっぽど早い手だ。

「で、どーすんの? 思いっきり敵視されてるっぽいけど」
「あーどうにも通信妨害されてるっぽいし……表に出ようか。A級辺りと勘違いされてる気がする」

 仮に眷属だとしても効くかどうかもわからないことをしっかりとやってくるとは、随分と手の込んだことをやるものだ。
 感心しながらの藤屋の言葉に、他の3人が納得して乗り込み口を開いて機体の上へと身を乗り出した。
 藤屋が出るとほとんど一緒に、後方で爆音が鳴った。

「大した歓迎だな」

 声を大きくして藤屋が言う。

「悪いね。近くで見たらにーさんたちがどう見ても敵にしか見えなくてさ」

 直後、十数人の人間が姿を現した。
 ロケット砲やライフルの大小様々な火器。剥き出しの地面の色に近い色合いの軍服や、緑を基調とした深い色がまだらに入った迷彩服。
 その統一感のない格好をした彼らの中から、リーダー格の男性を見つけて藤屋はその人物のほうへ向き直る。

「真似したのはこっちじゃないんだけどな」
「その辺り詳しく聞かせてもらおうかと思うけどさ……まあ人間が乗ってるなら立ち話はいいや。あんたがリーダー?」
「いいや。俺は船頭で、小隊長さんは少し後ろを着いてきてる人なんだよね」

 藤屋は首を横に振る。
 それを見ていた男が無線機で二三言葉を交わして顔を上げる。

「OK。そっちも足止めしてあるし、あんたでいいや。案内するからほかのもつれてついてきな、戦車用の入り口しかねーけど何とか入るだろ。
 後ろのほうで何人か先走っちまったみてーだから、そっちはそいつらに案内させるわ」
「悪いな、感謝する」

 ばつが悪そうに頭を掻いて見せると、男は藤屋たちが見失わないよう、道の真ん中まで出てきてから移動を始めた。

「ああ、そうそう」

 ――と、いうところですぐに立ち止まって振り返ると、満面の笑みを浮かべた。

「ここまで誰からも言われてないだろ? ようこそ、俺たちの国へ」