Stage02-08


《Starting 1st loader》

ったく。俺は何をやってるんだ。


《Scan from nucleus》

その前に親父は俺に何をさせたいんだ。


《Nucleus is confirmed》

俺の気になること? 散々放って置いていまさら父親のつもりか。


《Starting 2nd loader》

大体、なんでこんなものに乗らないといけない。


《Initialize to all systems》

こんな、得体の知れないものに。


《All systems completed》

……………………


《Stand up to Garnet》

でもなにか――


《Hello world》

なつか――しい?



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「暇だな」
「暇ですね」

 コンピュータの前に取り残された形の2人、翔とシルフィリアが口を揃えて呟いた。
 行き交う整備士と、運ばれてくる機材、巨大な、何に使うのかよくわからない様々な部品。人が人ならば見るものに飽きないといった風景なのだろうが、生憎彼らは選ばれし民ではない。言葉の通り、退屈以外の何でもなかった。

「スコットさんをお使いに出したのは失敗かもしれませんね。楽しくいじめられる人が居ません」
「俺じゃダメ?」
「あなたは悦びそうだから嫌です。それ以前に、勧誘している相手に悪い印象は与えたくありません」

 もう手遅れだろう。翔は思うが、思うだけに留める。きっとそういう冗談なんだろうと思うことにした。

「そういえば、何でお二人は一緒に居るんですか? どちらかと言えば宗城さんは『孤高の俺。カッコいい』とかそういうタイプに見えるんですが」
「それ、真似してんの?」

 指で眼の端を持ち上げてみせるシルフィリアに、流石の翔も苦笑を向ける。
 一拍置いてから、思い出すように格納庫の天井に視線を泳がせながら口を開いた。

「あいつ、ちょっと危なっかしそうだろ?」
「そうでしたか?」
「そうなんだよ。だからなんつーか。放っておけなくてさ」

 言い終えて、翔は気恥ずかしげに頭を掻く。
 危なっかしいとはいえ、アレの危なっかしさは普通とは少し違う。放っておけばただ敵を作り続ける、抜き身の刀か何かのような、そんな切れ味のあるそれだ。
 ならば自分はその鞘になってやろう、なんていう大それたものでは断じてない。ただなんとなく、放っておけなかったのだ。

「……思ったよりいい人なんですね。ただのチンピラかと思ってました」

 シルフィリアが感心したように、眼を丸くして目の前の金髪にピアスの男に言う。
 チンピラはないだろうと、翔は引きつった笑みを浮かべた。

「あんたは見かけからは想像できない口の汚さだな」
「そうでもないと、大人を相手にやっていけませんから。あ、水恵さん。こっちです」

 ふと、シルフィリアが手を振り始める。
 翔がその方向に視線を向けると、丁度女性がひとり向かってくるところだった。
 歩くたびに長い髪が左右に揺れる、シルフィリアとは対照的な、出るところの出た、スタイルのいい大人の女性だ。

「おーおー。シルフィリア殿が呼んでいるからと来て見れば、よりによって格納庫であちしに何の用かや?」

 女性が、外見にはあまり似合わない老人言葉でシルフィリアに問いかける。シルフィリアはそれに何の疑問も思わず、慣れた様に答える。

「いえ。シャルロットさんの試験が上手くいったらシミュレータと同期させないといけないんですけど、私は操作方法がわかりませんの」
「あの端っこにおる紅いやつのことかや。こっちの男には出来ないのかのう」
「オノコっていつの言……うぉっ」
「小言をぶつぶつと漏らしているのはこの口かや? どれ、摘まんでやろうか」

 置いてけぼりのようになり、特に理由もなく翔が呟いた言葉を聞き漏らさなかった女性の細く長い指が、唇に軽く触れるようにしながら彼の頭を抱え込み、女性の目と鼻と先まで引き寄せられる。
 悪戯っぽく、吸い込まれるような狐目に、翔は思わず言葉を呑まれていた。

「水恵さん」
「冗談じゃよ、冗談。そう急いては長生きできぬぞよ? シミュレータに繋ぐだけでいいのならすぐじゃ」

 呆れたようなシルフィリアの声に、女性はぱっと翔から手を離してコンピュータに向かい、コンソールパネルを叩き始めた。
 その背中に首を振り、シルフィリアが訂正する。

「いえ、訓練中のプログラムと同期させてください」
「……天道殿が今やっているものとかの?」
「ええ。私が連絡を付けておきますので、やってください」
「冷めた目で見られるのはあちしなんじゃが……」

 振り返らずにぶつぶつと、女性が唇を尖らせて呟く。
 それを傍目に、シルフィリアはコンピュータの傍にあった通信機を操作し始めた。

「あ、天道瞬二さんに繋いでください。シルフィリア・F・フリーダムです」
「……素でやってるのかのう。あー、おんし。そう、暇そうにしてるおんしじゃ。あちしは疲れてるから肩を揉んでくりゃれ」

 まるで私用電話のように備品を扱う姿に呆れ顔を見せ、暇そうにしていた翔を、女性がちょいちょいと手招きする。
 断れないんだろうなあと思いながら、翔はやれやれと歩み寄り、制服の上から滑らかな、丸みを帯びた肩のラインに触れる。
 柔らかい、男性のものとは明らかに材質から違う感触。姉で慣れていなければ逃げ出したくなるというものだ。慣れた手つきで凝った肩をほぐしていくと、肩揉みしているとは思えない艶のある声が漏れ始める。

「んっ……ふ、なかなか手つきがいいのう。あ、んっ……もう少し下、そう、上手じゃ。
 …………だがのう、男ならそのまま前に手を回してもいいんじゃぞ?」

 限界だった。
 翔は弾かれるようにして冷たい金属の床を転がり、何故か火照った身体を冷ます。
 その頭上に、ケラケラと悪びれた様子のない笑い声が響いた。

「成りに似合わず初心じゃのう、おんし。今から尻に敷かれる未来が見えておる」

 振り向かず、肩を震わせているその背中に軽い殺意を覚えながら翔は立ち上がって服に付いた埃を払った。
 終わるのを待っていたように、シルフィリアが通信機の大きな受話器を置いて2人に向き直る。

「お願いしました。構わないそうです。珍しく3秒ほど返事が来ませんでしたが」
「おんしのは『お願い』でなく『命令』なんじゃて」
「はい。知ってます」

 シルフィリア、爛漫の笑み。その姿に、思わず女性も苦笑を浮かべた。

「性質の悪い女子じゃのう……」
「お互い様です」