Stage02-06

 異次元だ。
 リムジンの中に広がる異次元に、両脇を抱えられながら乗り込んだ宗城創と三咲翔の2人は、ただ唖然と口を開けて車内を見渡す。
 窓のラインに沿うように並べられた高級感の漂う革のソファー。その脇には、ティーセットに始まり、色取り取りのハーブの詰まった瓶の数々、いったい何人に振舞うつもりなのかというほどのカップとグラス、仕舞いには明らかにアルコールであろう栓のされたボトルが何本も棚の中に収められていた。
 まるでホテルのスイートルームを縮小したような車内だ。
 芳しい香りが、白い湯気とともに漂う。窓にかけられた薄いヴェールから漏れる陽の光が、車内中央に置かれた長いテーブルの上に乗ったカップの、薄茶色をした水面が揺れるのを照らした。

「突然このような形でお呼び立てし、真に申し訳ありません」

 そのテーブルを挟んだ正面に座る少女が、何がなんだかわからずに居る2人に向かって小さく頭を下げた。

「えーっと……。そうです、スコットさん。お2人に紅茶をお出ししてください」
「なんで俺がやらねーといけねえんだ! こんなスーツ着せられて護衛に借り出されるだけでも億劫だってのによ!」

 ソファーの端っこで、拗ねるように座っていた黒いスーツに身を包んだ中年の男性が煩く叫んだ。
 まるで不良、いや、暴漢かなにかだ。今にも少女に襲い掛かり、組み倒してしまいそうな勢いではあるが、それを止めるべきであろう他の黒スーツの男達はこのブロックには居ない。思わず身体が緊張し、創と翔はソファーから小さく身を乗り出す。
 どこか緊迫した空気の中、少女は一口、紅茶を喉に通すと、太陽のような笑顔をスーツの暴漢へと向けた。

「スコットさん。私のお願いには、『はい』か『YES』でお願いしますね?
 そうでないと、うっかり者の私は手が滑ってあなたの首に巻かれたチョーカーの起爆スイッチを押してしまうかもしれません」

 少女は白いレースのハンカチを取り出し、よよよよよ、といかにも胡散臭く目尻へ当てる。その片手には、チェス駒のようなものが握られていた。

「あ、大丈夫ですよ。安心してください。爆薬は少量ですから。
 あなたの首がボールみたいに床の上を跳ね回るだけですので、周りへの被害は一切ありません。掃除は面倒ですが、車ごと買い換えればいいでしょう」
「こいつを聖女みたいな人だなんていいやがった奴はどこのどいつだよぉーッ!」

 頭を抱えて大きく背を反りながらスコットと呼ばれていた男性は叫び、端にあるティーセットへと転がるように駆けていった。
 少女が何事もなかったかのような笑顔を、呆気にとられていた2人へ向ける。それだけで2人は、背筋を張ってソファーに座りなおした。
 この少女に、口答えをしては、イケナイ。

「……騒がしくて申し訳ありません」
「あ、ああ、いや。はい」
「そうそう。まだ名乗っていませんでしたね」

 思い出したように胸の前で両手を合わせ、一拍置いてから言う。

「私の名前は、シルフィリア・F・フリーダム。
 白の財団という……まあ、所謂『正義の味方』の集団の代表を勤めさせていただいています」

 凄い勢いで胡散臭くなってきた。恭しく下げられた少女――シルフィリアの頭を見ながら、創は思って親友に視線を向ける。隣の彼も同じことを考えているようで、『どうするよ?』という2人の視線が重なった。
 どうするにもまず、車から降りなければどうしようもない。それまではテキトウに話でも聞いていればいいだろう。

「……その正義の味方の隊長さんが、俺ら高校生に何の用事があるんだ?」

 運ばれてきた紅茶の湯気を眺めながら創が聞き返す。
 流石に、こんなよくわからない人物の出すものをほいほいと飲んでいい気がしない……のだが。

「うお、まずっ」
(おいおい、何の遠慮もなく飲むのかよ!)
「淹れた本人の前でテメエ、喧嘩売ってんのかオラ!」
「スコットさん。あんまりガタガタと騒がれると空気振動でスイッチが押されてしまうかもしれませんよ?」
「投獄されてたころのほうが自由だったじゃねえか! 誰だ俺を脱獄させたのは!」

 頭を抑えてソファーの端で嘆く中年男性、見ず知らずの怪しい人物に出された紅茶を飲んで咽ている親友、胡散臭さ全開の白い少女。
 もうやだこの空間。

「……コホン。用事でしたね。宗城創さん、あなたにお願いがあります」

 創が頭痛を覚えながら視線を明後日の方向へと逸らすと、咳払いと共にシルフィリアが口を開いた。
 面倒くさそうに向け直した視線が、彼女へ知らぬ間に引き寄せられていく。気が付いたときには、視線を外すことができなくなっていた。
 釘付けにされた先で、少女は凛とした目を創へ向け、言葉の続きを紡ぐ。

「私達と一緒に闘って下さい」