Stage02-05

《Starting 1st loader》
《Scan from nucleus》



《Nucleus is confirmed》

《Starting 2nd loader》
《Initialize to all systems》






《All systems completed》

《Stand up to Garnet》



《Hello world》




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 何分、いや、何時間訓練を続けているだろう。
 磨耗してきた意識で、レイジはそれを考えるが、すぐにやめる。不毛だ。いつまでたっても縺れ合ってビルに正面衝突しているようでは、そう簡単にこの訓練は終わってくれないだろう。
 普段の訓練データならば何の支障もないのだが、足場のバランスを悪くしただけでもここまで酷い結果が待っていようとは、恐らく誰も気づかなかったに違いない。
 彼のような、人外の運動能力を持っている者であっても、既にその三半規管はメタメタであり、気を抜けば一気に乗り物酔いまで発展してしまいそうだった。
 もう何度目かも忘れた転倒。自分の機体の上に圧し掛かって倒れた華蛇菜の機体を押しのけ――ようとした瞬間、弱い電撃のような何かが体中を駆け巡った。
 身の毛のよだつような、首筋にナイフを当てられているような、明らかに異質な感触。
 ふいに感じたそれに、バランスを崩しながらも反射的に立ち上がっていた。
 何かが来る。理由を説明しがたい、本能的な直感を裏付けるように、天道の声が聞こえた。

「不整地行軍訓練を終了。訓練メニューを変更し、そのまま継続します。
 新しいメニューは市街地模擬戦闘。彼我の戦力比は10:1。足場のデータは通常のものに変更させました。
 あなた方の好きなメニューでしょう。がんばってください。よろしくお願いします」

 どこか苛立たし気な声が途切れると同時に、足元の感触がいつも感じる起伏の少ない、平坦な地面に変化した。
 指示を受けた周囲の機体――押し退けられた華蛇菜が、立ち上がる。彼もレイジと同じ重圧を感じてでも居るのか。それとも、天道が口にしなかった”敵”の存在を不信に思っているのか。挙動の細部に微かな不審を感じさせていた。

「10:1って、A級かそこらか?」

 近接戦闘用の大刀に手をかけながら、華蛇菜が呟く。

「まさか。それだって僕達にぶつけるなら、せめて10:3にはするよ。
 それはともかく、一番近いのは僕達みたいだ。たぶん、この新しく出てきた光点がそうだよね」
「そりゃそうかって、レーダーのどの辺……ああ、これか。ほんとに1機じゃん。10:1なら直ぐに……」
「……いや、待って。なんだこれ。速度がおかしい――来る!」

 レイジが焦ったように告げ、携えた20mm突撃砲の銃口を持ち上げる。その声に弾かれるように、華蛇菜も装備した武器を構えた。
 刹那、深紅の閃光が――

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「何が起こってるの?」
「知らないわよ。アンタがわからないことが私にわかるわけないでしょう」

 レイジと華蛇菜が戦闘に突入したころ、大通りでは3機のSaviorが移動していた。
 追いついては撒かれ、撒いては追いつかれを繰り返しているあやめと玲の2機と、訓練内容の変更とほぼ同時に合流したイングリッドの機体だ。
 相も変わらずいつもの調子で居る2人を先導するように、イングリッドがやや前に出て、歪な三角形のフォーメーションを作っていた。

「そんなこと偉そうに言わないでよ……」
「2人とも少し静かにしてください。向こうで1機……いえ、今2機目がやられました。接敵してまだ2分たっていません」

 エネミーと思われる光点と接触し、僅か1分強でこれだ。いくらなんでも早過ぎる。
 イングリッドが、レーダーに映っている……いや、映っていたレイジと華蛇菜の光点の位置を見ながら淡々と告げた。

「つまり合流失敗ってことね。私達みたいに最初から引っ付いてないからそうなるのよ」
「……ストーカーを自己弁護してんじゃないわよ。頭痛くなってくる」
「加えて言うなら、敵はこっちに向かってくるようですね。……聞いてます?」

 聞いてる聞いてる、と口を揃える2人に頭痛を覚えながら、イングリッドはレーダー上を動く点を目で追う。

「うわ、何これ。天道の奴いったい何と戦わせるつもりなのよ」

 あやめもそれを見ていたのか、なんとも率直な感想を漏らしてくれた。
 確かに、この速さはおかしい。陸上を飛ぶ戦闘機をコンセプトに作られたSaviorでさえ、この速度は出せないだろう。実際に敵が戦闘機であるといわれれば納得がいくところだが、それはありえない。戦闘機が殴りあうような近距離でSaviorに勝つことは、ほぼ不可能と見てもいいからだ。

「と、するとA級のどれかと見るのが当たりでしょうね。A-1の魔改造に一票」
「いきなり何を……。じゃあ私はA-3の魔改造ね」
「玲も乗らないでください。……そろそろ来ます。あと20」
「ごめんごめん。じゃあ、イングが正面でまず一発。崩れたところに私がもう一発。あやめでフィニッシュ。OK?」

 軽い雰囲気はそのままにしながらも、イングリッドのカウントに対して、テキパキと玲が告げる。

「その根拠は?」
「見てて速さに振り回されてる感じがする。動きが割りと直線的よ。ぐちゃぐちゃ動いてるからわかり難いけど。
 この通りみたいな直線でなら、人型の進攻ルートは限られるから、やれるはず」
「理解しました。乗りましょう」

 婉曲された言い方をしているが、事実上自分の盾になれと言われているような指示を、イングリッドはなんの抵抗もなく受け入れる。
 時間もなければ、それに変わる手を自分が思いつくわけでもない。まして、これは訓練であり、実践ではない。
 ……もっとも、彼女は恐らく実戦であっても、なんの躊躇もなくその役目を引き受けただろうが。

「はいはい。玲ちゃんのおいしいところはちゃんと食べてあげるから安心しなさい」
「……えっちなのはいけないと思います」
「いや、この場合ピンクなのはアンタの思考よ、イング。
 と、そんなことしてるうちにカウント10。じゃあ、確実によろしくね」

 ほいほーいという軽い返事とともにあやめの機体が後方へ大きく下がると、ビルの陰に遮蔽を取った。
 それとは逆に、イングリッドの機体が前に出る。

「私で決めても構わないんですよね?」
「おっと、イングが強気。構わないけど、そのときは後ろから撃たれても文句言わないでよね?」
「ええ、覚えておきます」

 2人が笑いあう。不意にその声が途切れ、一瞬の間に、張り詰めた空気が場を支配した。

 永遠のような刹那が過ぎる。
 ビルを飛び越え、敵影がその姿を晒した。
 擬似的に作られた逆光に、その赤黒い装甲が照らされて輝くと、これまで感じたことのないような重圧が襲い掛かる。
 いや、それは何の変哲もない純粋な恐怖だ。訓練だということさえも忘れさせるように、目には見えない鎖となって地面から飛び出し、3人へと絡みついた。
 その中で、誰かが呟いた。

「紅い……Savior?」